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パトロンの意味

「パトロンの意味を教えてください」
終電に乗り合わせた女性から突然聞かれた。
僕は仕事で遅くなったのだが、彼女は駅のホームでおぼつかない足取りで電車を待っていた。
これは相当お酒を飲んでるなと思ったのだが、案の定、電車に乗り込むとき段差に躓きそうになっていたので、ちょっと肩を貸してあげたのだ。
痴漢と間違われないように注意して体を支えながら、誰もいない車両の席に座らせる。
その時に彼女に聞かれたのだ。
・・・何を言ってるんだ?と思って、僕は返事をしないまま、彼女と距離を空けて座った。
「パトロンって、何もなくてお金がもらえるわけじゃないですよね?」
すると、彼女はこちらを向いて僕に支えてくれたお礼を言うと、とろんとした目で僕に尋ねてきた。
ちょっと厄介な人と関わってしまったかなと思ったが、邪険にするわけにもいかなかった。
パトロンの意味か・・・僕は彼女を横目で見ながらちょっと考えた。
もともとはゴルフの個人スポンサーを指す言葉だったと思うが、一般的には、水商売の女を金銭的に支える男のイメージが強い。
その見返りとして、女性は男の愛人になったり肉体関係を要求されたりする。
・・・僕もよくは知らないですけどね、とそのようなことを彼女に説明した。
「やっぱりそうですよね。そんな都合のいい話ないですよね」
彼女はそうつぶやくと暫し項垂れた。
パトロンの意味
ただ、そんなことをして男からもらうお金に価値はあるのだろうか。いや、価値観は様々だから一概に否定はできないが、僕なら自分の稼げる範囲内で慎ましやかな充足を見つける方を選ぶ。どちらにしろ、僕とは縁のない世界の話だが。
そんなことを彼女と話し合った。そして、彼女は僕の話を聞いて自分を納得させるようにうなずいていた。
やがて、電車は目的の駅に着いた。
「あの・・・ありがとうございました。突然、すみませんでした」
僕が下りようとすると、彼女は立ち上がって僕に深く頭を下げた。酔いもさめたのだろう、見ず知らずの男にパトロンの意味を聞くなんて、素面に戻れば恥ずかしいに違いない。僕は、どういたしまして、と軽く言うとそのまま電車から降りた。
こうして、僕にパトロンの意味を聞いてきた女性と出会って別れた。だが、また彼女と出会うことになるのだ。
「あの時はお金に困っていて、ある人からパトロンになるよって言われていたんですよ。でも、あなたのお話で私の決心はつきました」
今、僕はその彼女と恋人同士になっている。お互いに貧しい生活だが、心は満たされているつもりだ。
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